エンタープライズ企業がブロックチェーンの基盤選定でパブリックチェーンを避ける理由

今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。

より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。

⇒ SBI R3 Japan公式 Medium

目次
  1. 前書き
  2. エンタープライズ企業が基盤選定をする流れ
  3. アンコントローラブル
  4. 不完全な規制
  5. ファイナリティ問題
  6. 終わりに

前書き

SBI R3 Japanの趙です。過去の連載記事では、エンタープライズ企業がブロックチェーンの基盤選定をする際、Cordaの設計思想を例に設計思想の重要性について述べ、プライバシー確保がなぜ重要で難しいかを説明した上で、実際の開発・保守・運用においてどんな検討事項があるかについて説明しました。

ブロックチェーンとの向き合い方 -Cordaの設計思想を例に-

エンタープライズ企業におけるブロックチェーン活用の課題 -プライバシーの確保-

エンタープライズ企業のブロックチェーン導入 -開発・保守・運用-

本記事では、なぜパブリックチェーンはほとんどのエンタープライズ企業が比較・検討するにも関わらず、現段階では使わない(特にB2Bにおいて)という意思決定をするかについて、パブリックチェーン特有の理由があるかについて考えてみようと思います。

筆者はパブリックチェーンがビジネスに全く使えないと言いたいわけではありません。本記事の趣旨は、パブリックチェーンにどのような課題があり、その結果としてなぜプライベート型(コンソーシアム型)ブロックチェーンがエンタープライズ企業に選ばれるようになったかについて述べることで、パブリックチェーンの発展への寄与並びに、エンタープライズ系のブロックチェーンの普及に自分の力を貢献することにあります。

エンタープライズ企業が基盤選定をする流れ

エンタープライズ企業はどんな流れで基盤選定を行うのでしょうか。一言で答えますと「ケースバイケース」になります。ここでは(一例として)、今後競合に負けないため/勝つために、ブロックチェーンを使っていかないといけないと考えている企業を例に説明したいと思います。

企業自身のITチームに基盤選定を実施する能力がある場合、自社での情報収集の他、外部企業に対しても情報を求めます。

例えば以下のようなことについて検討します。

  • 基盤のスケーラビリティ
  • CPUやメモリなどの拡張性
  • モニタリング方法
  • トランザクションと既存システムとの連携方法
  • トランザクションが詰まっている時の対応/対策方法
  • 異なるブロックチェーンネットワーク間の通信方法
  • プライバシーの確保方法
  • 開発コストやランニングコスト

企業自身に基盤選定を実施する能力がない、もしくは能力不足の場合、他の企業の力を借りることもあるでしょう。外部企業とコンサルティング契約を行い、共に基盤の選定を行い、どのようにアプリケーションを設計したり、開発したり、保守運用するかを考えるのがその一例です。ただしこの場合、コンサルティング会社によって得意/不得意な基盤があるため、発注先に偏った助言をする可能性があり、気を付ける必要性があります。

また、実現したいユースケース次第で、基盤選定の仕方が変わるケースもあります。例えば、そもそも実現したいユースケースを実現できるかどうか、実現できる基盤が複数ある際にどの基盤を使った方が良いのかなど様々あります。

しかし、現段階においてエンタープライズ企業が基盤の選定をする際、パブリックチェーンを選ぶケースは全体的に少ないことが多いです。どのような理由から使いにくいのでしょうか。

アンコントローラブル

基本的にエンタープライズ企業は、あらゆるリスクを軽減もしくは最小化したいという志向があるため、コントロールが難しいものは避ける傾向にあります。ブロックチェーンの基盤選定においても同じです。

パブリックチェーンの場合、自分が予期せぬタイミングでアップデートが行われたり、チェーンが分裂したりすることがあります。そのアップデートのタイミングを自社がどれくらい関与できるか、自社のビジネスに都合が悪いアップデートがされたらどうなるかなどを考慮しないといけない点が、従来の所謂IT開発とは異なります。その他、過去の連載記事の中でも言及した「GAS代の価格の急激な変化」を考えると、予算がなかなか立てられないということも当然あります。

一見大したことないように感じるかもしれませんが、様々なユースケースをパブリックチェーン上に作り、自社の既存システムとも繋ぎ、やっとサービスをローンチして軌道に乗りそうな時に、基盤のアップデートによって、開発したシステムを改修しなければならないとなると、企業側からしては「たまったもんじゃない」となります。

自社サービスを作るために、人を雇い、専門チームも作り、各システムインテグレーター企業やコンサルティング企業と協力しながら、数回PoCを経てやっとサービスローンチした企業があるとします。パブリックチェーンであるがゆえに自社開発内容に影響する大きなアップデートがされたら、今までかかった費用以外にもさらに費用がかかります。将来も同様なことが起きない保証がない中、プロジェクトを継続しようという意思決定に容易にはなりません。

だからサトシ・ナカモトが2010年の時に、bitcoin talkでSet in stoneと言っていたかもしれません。しかし、現実的にはそうなっていません。

さて、資金も人的リソースもある大企業が、あるパブリックチェーンに影響を与えつつ、自社のビジネスに有利な形にしていこうとするケースを考えてみましょう。この場合非常に未知な点が多いです。パブリックチェーンの開発に影響を与えるのか、マイナーに影響を与えるのか、与えるのであれば、どんな形でどのレイヤーに影響を与えたら良いのか、そもそも大企業の影響なんて非中央集権的な思想を重視するパブリックチェーンのギークたちは受け入れるかどうかなど、一気に必要な検討事項が増えます。

ここで一旦原点に立ち返って考えてみましょう。結局なぜブロックチェーンを使うのでしょうか。合意されたプロセスで同じデータを異なる主体が持つことで、データの真正性が保証され、価値の移動が可能になるということなのではないでしょうか。すべてとは言いませんが、多くのユースケースはコンソーシアム型でも実現可能なため、現段階では、多くの企業がコンソーシアム型を選んでいると筆者は考えます。

不完全な規制

もう一つパブリックチェーンを使いにくくしているのが、不完全な規制です。現在、規制を規定する側もどのように規制をすれば良いかを石橋を叩きながら検討しています。

ブロックチェーンを使いたいエンタープライズ企業も同じです。どのように使えば良いかの「正解」がない中で、パブリックチェーンでこうやったら将来的に規制に引っかかるのでは?と怯えながらやるのだったら、まだ従来のIT開発と近いコンソーシアム型でやった方がマシです。

比較的に馴染みのあるケースで話すと、暗号資産でのAML(アンチ・マネーロンダリング)があります。 金融機関では、犯罪取引の防止のためにAMLに関するガイドラインや法令を遵守する義務があります。犯罪取引の防止だけではなく、違反時には多額の罰金支払いがあるため対策は必須となっています。もし、自社がパブリックチェーン上でサービスを開発し、その上でパブリックチェーンのネイティブトークンが流通している中で、送金の追跡がほぼ不可能になるようなアップデートがされたら、サービスを継続できるかが問題です。きっと対応策が求められるでしょう。

「アップデートによってこんなことが起きるとは思わなかった。」では済まないです。規制ができるまでに、なかなか使いにくい状況ですが、規制ができるまで待つには時間がかかります。そしてこれは日本の規制だけで済む話ではなく、他国の規制、世界範囲での規制など、様々な側面から考える必要性があることから、やはり時間がかかりそうです。

ファイナリティ問題

パブリックチェーンは金融業界で「決済の確定」の意味を持ちます。決済が確定できることは安全な決済を行うために非常に重要な意味を持ちます。 日本銀行のWebサイトで分かりやすい例が書かれています。

第7章 決済の実行 : 日本銀行 Bank of Japan

少し引用しますと、 用いられる決済手段について(1)受け取ったおかねが後になって紙くずになったり消えてしまったりしない、また決済方法について(2)行われた決済が後から絶対に取り消されない――そういう決済が「ファイナリティのある決済」と呼ばれます。

ビットコインを始めとする多くのパブリックチェーンはしばしば「ファイナリティがない」という風に言われます(プライベートチェーンもこのようなことがあります)。日本ブロックチェーン協会のブロックチェーンへの定義をお借りして説明しますと、「 時間の経過とともにその時点の合意が覆る確率が0へ収束する」と定義しています。言い換えれば、絶対に覆されない保証はないが、限りなく時間の経過とともに確率が0に近づくということであり、絶対覆されたくなければ、効率を犠牲し、覆されていないことを確認するためのコンファメーションの時間をとる必要性があるということです。

ただこれはエンタープライズ企業のレベルとなると大きな問題となってしまいます。それは規模が大きいため、コンファメーションの時間をとらずにビジネスを走らせるわけにはいかないからです。特に金融業界において、流動しているお金の額は膨大です。合意が覆される確率が0.000000000000000000000000000000000000000000000001%でも、合意が覆されれば、企業は倒産し、金融危機が起こる可能性もあるのです。

ここはある種ファイナリティに対する考え方の問題であり、どれが良いか/悪いかの議論ではないのです。確率論的に安全に決済できない可能性が0に近い仕組みと、絶対に安全に決済できる仕組みでそれぞれビジネスを行う際、どんな違いがあり、どんなリスク管理をする必要があるかということです。例えば、世界中の金融機関が集まってできたR3が開発したCordaはそのことを見越してファイナリティがある設計となっています。なぜならファイナリティの重要性を誰よりも理解しているからです。

Cordaについては是非Corda JapanのMediumをご覧いただければと思います。

Corda Japan -Cordaで世界を変えよう-

終わりに

本記事ではビジネスにおいて一歩遅れると、その差はどんどん大きくなってしまう中で、エンタープライズ企業はエンタープライズ系基盤を選んでいる現状と、現段階においてなぜエンタープライズ企業はパブリックチェーンを避けるかについて簡単に説明しました。

しかし、本記事で言いたいことは決して将来にわたってパブリックチェーンが使われないわけではなく、あくまで現時点でエンタープライズ企業が使うにはまだまだ課題が残っているということです。個人的には将来的にパブリックチェーンが使われるようになる可能性はあると考えています。

本記事を通じて少しでもブロックチェーン業界の発展に貢献出来たら幸いです。

(記事作成:SBI R3 Japan/Zhao sheng)

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